瓢箪鯰的な男の雑記帳

心にうつりゆくよしなしごとを そこはかとなく書きつくる そんな雑記帳

新・シルクロードを観ながら

国破山河在
城春草木深
杜甫『春望』)

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 先日、家の中を片付けていたら
10年少し前に撮りためた「新・シルクロード」が出てきて
ちょっと片付けの手を止めて見入ってしまった。
その時妙な感じがしたので、ここに備忘的に書き留めておく。

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 昭和55年に、NHKスペシャルで「シルクロードをやっていて
それを撮ったVHSテープが自宅にあり、好んでよく見ていた。
悠久とも言えるタリム盆地に、昔ながらのバザールをやっているさまをみて
自分もいつの日か西域に行きたいと思うようになった。
(その後治安が怪しいのと体調の加減で実現してはいないのだが)
歴史が好き、さらに「日本人はどこから来たのか?」を探るのが好きな自分にとって
シルクロードは歴史がそのまま保存されているような錯覚に陥らせてくれて
非常に心地がよかったのだ。

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 タクラマカン砂漠、西端のカシュガル
昔からシルクロードの天山南路と西域南道が交わるオアシス都市だ。
40年前、この交差点は舗装もされておらず土埃の舞う
あまりにも牧歌的な道だった。

 それから30年。
道路は舗装され、近代的なビルが交差点を囲い
日干し煉瓦で作られた家が並んでいた通りは取り壊され
そこには瀟洒な商店が軒を連ねるようになっていた。
町は成長し、より豊かになっていた。

 それを見た時、本音を言うと非常に落胆してしまったのだ。

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 長安の都が戦火に包まれても、ただ在ったのは山河だが
ここタクラマカン砂漠においては、河すらも不変ではない。
タリム川は雪解けの時を待たないと干上がったままであるし
楼蘭を支えたロプノール湖は、その位置を変えて旅人を悩ませた。

 敦煌の仏像、三蔵法師の物語だけを見れば
パミール高原以東のシルクロード仏教徒の道のように錯覚するが
ここは太古より戦乱が絶えない土地で、
目まぐるしく支配者が変わり、それごとに風俗も変わっていたのだ。

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 悠久なるシルクロードとは幻想に過ぎず
絶えず変化するのがシルクロードである。
そこに僕は、勝手に「昨日的な今日」を期待してしまい
それが裏切られたからと言って落ち込むという、独り相撲を取っていたのだ。

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 元来、成長とは変わることと不可分なはずである。
他者に対して豊かになってほしいとは、常に思っているのではあるが
それとは裏腹に変わらないことを望んでいたのだ…。

 この矛盾をどのようにうっちゃるか考えながら本棚を覗くと
学生の頃あれほど愛読したシュンペーターが埃をかぶって、
奥に押し込まれていたのだった。